馬券の先にある真実②

浅井にとって、競馬場は第二の家のような存在だった。スタンドで新聞を広げ、コーヒーを片手にレースを見つめる。そのルーティンは変わらない。だが、ある日、浅井はふと胸の奥に違和感を覚えた。

「最近、俺の予想はどうも型にはまりすぎている気がするな…。」

いつからだろうか。浅井の中で、結果を出すためのルールやパターンが固まりすぎていた。確かに成績は安定していた。だが、その反面、冒険心や新しい発見をする喜びが薄れているように感じた。

その頃、浅井の周囲にひとりの若者が現れた。名を村瀬という、20代半ばの競馬好きだ。浅井を慕い、しきりに質問をぶつけてくるその姿は、かつての自分を思い起こさせた。

「浅井さん、どうしてあの馬を狙わなかったんですか?調教も良かったし、コース適性もありそうだったのに。」

村瀬の問いに、浅井は少し考え込んだ。そして、ポツリと答えた。

「俺の目が曇っていたんだろうな。これまでの経験に頼りすぎて、新しい風を見逃していた。」

村瀬は驚いた顔をした。「そんなことがあるんですか?浅井さんほどの人でも。」

浅井は笑って言った。「だから競馬は面白いんだよ。どれだけ経験を積んでも、新しい学びがある。俺もまだまだだ。」

その会話をきっかけに、浅井は初心に立ち返ることを決意した。これまでの自分のスタイルを維持しつつ、あえて「非常識」に思える予想を再び取り入れてみようと考えた。

ある日のメインレース。出走馬の中に、1頭だけ誰も注目していない馬がいた。戦績は平凡、前走も大敗。しかし浅井の目には、その馬が「隠れた好走条件」を満たしているように映った。

「この馬だな。」

浅井は迷うことなく、その馬に厚く張った。他人の目には「なぜそんな馬を?」と思われる選択だったが、浅井には確信があった。

結果は圧勝だった。その馬はスタートから鋭い脚を見せ、最終コーナーでは群を抜いていた。ゴール板を駆け抜けた瞬間、浅井の中で押し込まれていた何かが弾け飛んだような気がした。

「これだ。これが競馬だ!」

久しぶりの大勝利に周囲の仲間たちが喜ぶ中、浅井はひとり静かに思った。馬券は「当てるもの」であるという信念を、再び強く感じたからだ。そしてそれは、競馬の世界に新しい扉を開くきっかけにもなった。

その日の夜、村瀬と居酒屋で乾杯をした浅井は、ふと笑顔を見せた。

「お前のおかげで、新しい発見ができたよ。若いお前の視点には、まだ俺にはないものがある。それをこれからも教えてくれ。」

村瀬は嬉しそうにうなずきながら言った。「僕も浅井さんから学び続けます。でも、いつか僕も浅井さんを超えたい。」

「いいじゃないか。その意気だ。」

浅井の目は再び輝きを取り戻していた。競馬は人生と同じで、終わりなき挑戦の連続だ。そしてその挑戦は、自分の枠を超えて他者とつながり、新しい価値を生み出していくのだ。

浅井の馬券道はまだ終わらない。競馬場には今日も新しい馬が走り、新たなドラマが生まれる。そして浅井もまた、見慣れた新聞を手に、未知の可能性を探し続けるだろう。

「競馬とは、自分を高める挑戦の場だ。そしてその果てにこそ、本当の楽しさがある。」

彼の信念は、競馬場の風とともに、次の世代へと受け継がれていく。(つづく)

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